売掛金の「残高と動き」を確認するだけで見えてくる税務リスクと経営管理上のリスク(シリーズ決算②)

シリーズ決算の2回目は売掛金です。今回は売掛金に焦点を当て、残高の確認が税務リスクおよび経営管理上のリスク管理の両面でどう機能するかを解説します。なお、今回のコラムは掛売上がある事業者さんを想定しております。

売掛金は単なる「未回収の売上」ではありません。売掛金の残高と動きにズレがあるということは、

  • 売上のズレ(=税務リスク)
  • 経営管理上のリスク(未回収・信用悪化・内部統制)

のいずれかが潜んでいるということです。

売掛金は、売上の正確性・資金繰り・取引先の信用状況を同時に映し出す重要な科目です。

1 売掛金が変動する3つの主な要因(仕訳例で解説)

売掛金が10,000円増減する主な要因は次の3つです。

(1) 売上を計上
(売掛金)10,000 / (売上)10,000

(2) 売上値引・売上割戻・返品
(売上)10,000 / (売掛金)10,000 ※本稿では売上勘定で処理する前提とします。

(3) 売掛金回収
(現預金)10,000 / (売掛金)10,000

売掛金の残高は、これら3つの動きの積み重ねで構成されています。

2 売掛金の残高が合わない5つの要因

売掛金の残高が合わない原因は、大きく次の5つに分類できます。

(1) 売上を計上しなかった

入力担当者の失念や営業担当者の報告漏れなどにより、売上計上が漏れたまま回収処理だけが行われるケースです。

  • 利益が過少に計算される
  • 税金の過少申告リスク
  • 決算書上の業績が実態より悪く見える(銀行評価の低下)
2月の売上計上漏れにより3月の計上額と残高が一致しない例を示す売掛金元帳の図

この例では、2月に1,500,000円の売上計上が漏れていたため、3月の借方合計(5,500,000円)と月末残高(4,000,000円)が一致しません。差額の1,500,000円が、計上漏れの金額に一致します。

(2) 売上値引・売上割戻・返品の処理漏れ

値引き後の金額で入金されているのに、値引処理が漏れているケースです。

  • 実態より高い売上が計上される
  • 税金の払いすぎ(税務署は指摘しない)
  • 粉飾決算に近い状態になり、経営判断を誤らせる
2月の売上値引の処理漏れにより3月の計上額と残高が一致しない例を示す売掛金元帳の図

この例では、2月の値引き1,000,000円の処理が漏れていたため、借方合計(5,500,000円)と残高(6,500,000円)が一致しません。実際より売掛金残高が多く計上されたままになっています。

(3) 売掛金回収時の科目誤り

入金を仮受金など別科目で処理してしまい、売掛金元帳に反映されないケースです。

  • 売掛金残高と売上計上額が一致しない
  • 売上のズレに気づけない
3月15日の入金が科目誤りにより売掛金元帳に記帳されず、計上額と残高が一致しない例を示す図

この例では、3月15日に入金があったにもかかわらず科目誤りにより売掛金元帳に反映されず、借方合計(5,500,000円)と残高(7,000,000円)が一致しません。

(4) 売掛金の未回収

翌月決済が一般的ですが、翌々月以降になるケースもあります。また、請求漏れ・得意先のミス・資金繰り悪化などにより未回収となることもあります。

  • 資金繰り悪化
  • 取引先の経営悪化のサインを見逃す
  • 時間が経つほど回収が困難になる

なお、残高確認をする際は前月以前からの繰越残高にも注意が必要です。当月の計上額と残高だけを単純に比較すると、繰越分があるためにズレているように見えることがあります。

前月繰越残高がある場合に当月の計上額と残高を単純比較すると一致しない例を示す売掛金元帳の図

この例では、2月末の残高3,500,000円が3月に繰り越されているため、3月の借方合計(5,500,000円)と残高(9,000,000円)は単純には一致しません。繰越残高を踏まえたうえで確認することが重要です。

(5) 架空売上の計上(従業員不正)

営業担当者などがノルマ達成のために架空売上を計上するケースです。当然入金がないため、売掛金残高にいつまでも残り続けます。

  • 税金の払いすぎ
  • 内部統制の弱さが露呈しやすいケース
  • 気づいたときには事態が深刻化していることがあります

(1)は過少申告リスク、(2)(5)は過大申告リスクにつながります。税務調査では「売掛金と売上の整合性」が最初に確認される項目の一つであり、説明できないズレは帳簿確認の深度を高める要因になります。

3 売上高と売掛金はリンクする

売掛金のズレはそのまま売上のズレです。

売上元帳だけを見ていても、

  • 計上漏れ
  • 架空売上
  • 値引処理漏れ

などの”存在しない数字”には気づけません。売掛金の残高と入金の動きを突き合わせることで、初めて「本来あるべき正しい売上高」が確定します。

これは税務リスクの低減だけでなく、経営判断の精度を高めるためにも欠かせない作業です。

4 残高が合わない場合には早めに対応を

私が税理士になる前、複数の会社で経理担当として勤務していた際、「1年以上前のミスが放置されていた」「過去の売掛金が未回収のまま残っていた」というケースを実際に経験しました。

売掛金のズレは年度をまたぐほど対処が難しくなります。

  • 未回収は時間が経つほど回収可能性が下がる
  • 架空売上は内部統制の問題として深刻化する
  • 税務リスクも積み上がる

売掛金の残高確認は、税務リスク・経営管理上のリスクの両面で最も効果的な手法です。決算のたびに当年分の確認と対処を行うことが望ましいです。

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