仕掛品のズレが利益を歪める ~プロジェクトの進捗が数字に正しく反映されているか

「今期はプロジェクトが立て込んでいたはずなのに、思ったより利益が出ていない」「銀行に決算書を見せたら、去年より仕掛品(未成工事支出金)が増えている理由を聞かれた」――そんな経験はありませんか。

製造業・建設業・ソフトウェア開発など、プロジェクトごとに原価を集計する個別原価計算で仕事を進めている会社にとって、仕掛品はプロジェクトの進捗がそのまま利益に直結する重要な科目です。

実物在庫のように数えて確認できるものではなく、振替処理に依存するため、経営者が気づかないうちに金額がズレやすいという特徴もあります。

材料費・労務費・経費が仕掛品に集約され、プロジェクトが完成すると売上原価に振り替わり利益に反映される流れを示す図。未完成の分は仕掛品として翌期に繰り越される。
完成していないプロジェクトの原価は仕掛品として残り、完成した瞬間に売上原価へ振り替わり利益に反映されます

このコラムでは以下の3点を整理します。

  • 仕掛品のズレが利益をどう歪めるか
  • 銀行・取引先が仕掛品をどう見ているか
  • 経営者として押さえておきたい視点

1 仕掛品は「プロジェクトごとの未完成原価の保管場所」

個別原価計算を採用している場合、仕掛品とはまだ完成していないプロジェクトに投入した材料費・労務費・経費を一時的に集めておく科目です。プロジェクトが完成すると、そこに積み上がっていた原価は売上原価へ振り替えられ、はじめて利益計算に反映されます。

ここで重要なのは、仕掛品の金額が実態とズレていると、完成していないプロジェクトの原価まで利益計算に混ざってしまうということです。逆に、完成したプロジェクトの原価がいつまでも仕掛品に残ったままになっていることもあります。どちらの場合も、決算書に表れる利益はプロジェクトの実態を正しく反映していません。

2 仕掛品のズレが利益・税金にどう影響するか

仕掛品のズレには、大きく分けて2つの方向があります。

①仕掛品が実態より少ない(過少計上)

本来はまだ仕掛中のプロジェクトの原価まで、完成分として売上原価に計上してしまっているケースです。

  • 利益が実態より小さく見える
  • 税務調査で「経費の計上時期が早すぎる」と指摘される可能性がある
  • 実際は利益が出ているのに、必要な投資や採用を控えてしまう判断ミスにつながる

②仕掛品が実態より多い(過大計上)

すでに完成しているプロジェクトの原価が、売上原価に振り替えられずに仕掛品として残ってしまっているケースです。

  • 利益が実態より大きく見える
  • 本来より多い税金を払っていても、税務署は指摘してくれない
  • 実態以上に利益が出ていると勘違いし、過剰な投資や採用につながる

どちらの方向であっても、実態を反映していない利益をもとに経営判断をしてしまうリスクがあることに変わりはありません。プロジェクトは動いているのに利益が出ていない、あるいは利益は出ているのに資金繰りが厳しい、といった違和感の背景に仕掛品のズレがあることは少なくありません。

3 銀行・取引先は仕掛品をどう見ているか

建設業やソフトウェア受注開発など、仕掛品(未成工事支出金)の残高が大きくなりやすい業種では、銀行はこの残高の動きを重要な確認ポイントにしています。

  • 売上に対して仕掛品の残高が不自然に増えていないか → プロジェクトの管理ができているかを判断する材料になる
  • 前期との増減理由を説明できるか → 説明できない変動は「管理能力の弱さ」と評価されることがある

仕掛品残高が大きくても、未完成の大型案件が増えているという説明ができれば不自然ではありません。取引先が与信を判断する際にも、同じ視点で仕掛品の残高を確認していることがあります。決算書の数字そのものだけでなく、「その数字を経営者が把握し、説明できるかどうか」が信用につながります。

4 経営者として押さえておきたい視点

仕掛品の残高が実態と一致しているかどうかを、経営者自身が帳簿レベルで照合する必要はありません。それは経理担当者や顧問税理士の役割です。経営者として意識しておきたいのは、次のような視点です。

  • 前期との増減を、感覚として説明できるか
    「大型プロジェクトが進行中だから」「今期は完成案件が多かったから」など、仕掛品残高が前期より大きく増減している理由を、自分の言葉で説明できるかどうか。
  • 大きな案件が完成したタイミングで、税理士に一声かけているか
    大型案件が完成した期は、その原価がきちんと売上原価に反映されているか、決算前に税理士へ確認しておくと安心です。
  • 数字とプロジェクトの実態に大きなズレがあれば、早めに相談する
    「思ったより利益が出ていない/出すぎている」と感じたら、仕掛品の動きが一因になっていないか、税理士に聞いてみることをおすすめします。

5 まとめ

仕掛品は、未完成のプロジェクトにかかった原価が期末在庫として残る科目です。個別原価計算を前提とする業種では、完成した分だけが売上原価に振り替えられるため、仕掛品のズレはそのまま利益のズレにつながります。

決算書を読むうえで大切なのは、仕掛品残高の大小そのものよりも、その内容と増減理由を経営者が把握していることです。仕掛品の動きを説明できるかどうかは、社内の経営判断だけでなく、銀行や取引先からの信用にも関わってきます。

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