シリーズ決算⑥ 意外と難しい減価償却資産と減価償却費の決算
シリーズ決算の6回目は減価償却資産です。
減価償却資産は使用可能期間(税法上は耐用年数と呼びます)を決めるのが一番重要で場合によっては難しい作業となります。
また、決算時においては減価償却費の計算も重要な作業となります。第1回の「シリーズ決算① 資産・負債の残高を確認することで決算の精度を上げる」で資産・負債の残高が利益計算に影響することと残高確認についてお伝えしました。減価償却資産については減価償却費の計算に意識が向きがちで減価償却資産の残高には注目しない方が多いのではないでしょうか?
しかしながら減価償却資産の残高を確認すると違った側面が見えてきます。
1 減価償却資産の範囲と耐用年数
減価償却資産の範囲は所得税法施行令第6条や法人税法施行令第13条に同じ内容のものが規定されています。
たとえば第7号では「工具、器具及び備品(観賞用、興行用その他これらに準ずる用に供する生物を含む。)」と規定され、動物カフェなどにいる動物はこれに該当します。
ただし施行令には耐用年数は規定されていません。
実際には「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(以下、耐用年数省令といいます)に資産の区分と耐用年数が規定されていて、主に別表を参照して決めることになります。
リンクをご覧いただくとお分かりいただけるかと思いますが、ページ数が非常に多くどの資産の区分に該当するのかを探すだけでも大変です。(巷では1ページ程度に要約されたリストが出回っており、それを参照している方が多いかもしれませんが正確な方法ではありません)
実務上はとくに別表一のどの資産に該当するかの判断が非常に難しいと思います。
例えば冷房用の資産として別表一において「建物附属設備」に属する「冷暖房設備」と「器具及び備品」に属する「冷房用又は暖房用機器」が規定されているので、どちらの資産に該当するか見極める必要があります。このように同じような資産が複数の資産の種類・細目に規定されていたりするので慎重に見極める必要があります。
また、別表二には「機械及び装置」に属する資産が規定されています。
単体で機械及び装置に該当する資産もあります。
しかし、単体では別表一に規定する資産でも製造ラインに組み込まれる資産のように複数の資産が有機的に結びついて共通の目的を達成する場合には、これらの複数の資産の集合を1つの「機械及び装置」とみなす場合もあります。
この判定も非常に難しく、裁判や国税不服審判所の裁決で納税者側が負けている事例がいくつかあります。
特定の場所に複数の減価償却資産が集まっている場合などは要注意です。
金額が大きなものは税理士に確認した方が良いでしょう。
2 減価償却資産の取得価額
減価償却資産の取得価額には本体価格だけでなく減価償却資産の取得に要した費用や業務の用に供するために要した費用も含まれます。「取得に要した費用」や「業務の用に供するために要した費用」といっても範囲が非常に広く、どの費用を資産の取得価額に含めるかは実務上問題となります。
所得税基本通達や法人税基本通達に具体例が記載されていますが、具体例なので資産の取得の経緯と費用負担との関係性によって取得価額に含めるか否かが変わってきます。
通常は、資産の購入の場合には購入に係る請求書などに記載されている項目から拾い出すことができます。ただし、取引内容によっては取得の前後にあたって支出した費用も含まれたりするため、1枚の請求書などでは拾い出せない項目も含まれたりします。
金額が大きい場合には税理士に確認した方が良いでしょう。
3 減価償却資産の償却方法と償却率
減価償却資産の償却方法には定額法、定率法などがありますが、所得税法施行令第120条や法人税法施行令48条において、資産ごとにどの償却方法によって償却するかが規定されています。
複数の償却方法の中から選択できるものに関しては事業者が届け出た償却方法によります。届出しない場合には所得税法施行令125条又は法人税法施行令53条によって自動的に償却方法が決まります。
また、償却方法と耐用年数に応じて償却率が規定されています(具体的には耐用年数省令に規定されています)
4 減価償却費の計算例
これまでの説明をふまえて減価償却費の計算と仕訳の例をご紹介します。
ここでは個人事業主または12月末決算の法人が建物を購入したものとします。
(1)前提条件
資産の種類 鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所用建物
償却方法 定額法
耐用年数 50年(償却率0.020)
取得価額 50,000,000円(消費税は考慮しないものとします)
取得日 令和7年3月1日
業務供用日 令和7年4月1日
(2)計算
令和7年分 50,000,000円×0.02×9月/12月=750,000円
令和8年分以後 50,000,000円×0.02 =1,000,000円
(3)仕訳(減価償却累計額を計上しない方法によります)
令和7年分 減価償却費750,000/建物750,000
令和8年分以後 減価償却費1,000,000/建物1,000,000
上記は実務上最も多く選定されるであろう定額法によって計算しています。
取得日ではなく業務供用日から減価償却を開始するので初年度の令和7年分は4月~12月の9か月で月数按分しています。
令和8年以後は毎年同じ金額を減価償却費として計上することになります。
5 取得価額が少額な場合の特例
4で原則的な減価償却費の計算について説明しましたが、減価償却資産の取得価額が一定額以下である場合には下記(1)~(3)までのいずれかの計算によることができます((1)は個人については強制適用です)
(1)1個の取得価額が10万円未満の場合 個人は強制適用
取得価額の全額を業務供用日の属する年に費用処理します。
(2)1個の取得価額が20万円未満の場合
取得価額の3分の1を業務供用日の属する年を含めて3年間にわたって減価償却費として計上します。
(3)1個の取得価額が30万円未満の場合
取得価額の全額を業務供用日の属する年に費用処理します。
ただし、1年あたりの取得価額の合計は300万円までとし、常時使用する従業員数が500人以下の事業者に限り適用を受けられます。【(1)~(3)の注意点】
※1 副業として他に貸し付ける場合や所有権移転外リースにより取得した場合など一定の場合には適用がありません。
※2 取得価額については税抜経理の場合には税抜価額、税込経理の場合には税込価額で判定します。
※3 実務上は資産の取得日=業務供用日として処理するかもしれませんが、厳密には業務供用日に費用処理するのが正しい方法です。
6 減価償却資産の残高等の確認
減価償却費の仕訳を入力したら固定資産台帳と減価償却資産の元帳を確認しましょう。
ここでは減価償却資産はパソコンA・B・Cの3台のみであるものとして減価償却累計額を用いない直接法を前提に説明します。

上図は固定資産台帳と備品の総勘定元帳です。
チェックポイントは主に下記2つです。
①固定資産台帳の減価償却費の合計額と減価償却資産の元帳の貸方計上額は一致しているか?
②固定資産台帳の期末帳簿価額と減価償却資産の元帳の決算日の残高は一致しているか?
上図の①と②がチェックポイントに対応していますが、固定資産台帳と備品の総勘定元帳とで数字が異なっています。
理由は以下のとおりです。
①固定資産台帳で計算したパソコンBの減価償却費の数字を備品元帳に誤って記帳した(黄色部分)
②パソコンCの取得の仕訳は入力したが、固定資産台帳への登録が漏れた(緑部分)
そのためパソコンCの減価償却費が計算されていない
減価償却資産については資料が複数あるので、各資料の整合性に着目するとミスの防止につながります
7 お気軽にご相談を
これまで見てきたように減価償却資産はまず資産の区分と耐用年数を確認するのが重要な作業となります。
資産の区分の判定を誤ると毎年の減価償却費の計算誤りにもつながります。
また、減価償却費の計算においては計算方法だけでなく、固定資産台帳と総勘定元帳の関係性に着目して減価償却費の計上漏れなどを防ぐことも重要です。
本稿をご覧になって不明点や疑問点がありましたらお気軽にオンライン個別税務相談にてご相談ください。



