開業と税金② 開業に必要な手続と消費税について
目次
1 はじめに
私は確定申告の時期に青色申告会や税務署などで決算や確定申告の指導をしてきましたが、 確定申告の時期に相談に来る方の中には事業を始めるにあたって必要な手続をしていない方も毎年いらっしゃいます。
しかし、開業する場合には税務署にさまざまな書類を提出しなければなりませんし、書類の提出をしなかったために税金を多く納付しなければならないという事態も生じます。
そこで今回は開業に必要な手続と消費税についてお伝えします。
消費税って何?と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、事業を始めるにあたって所得税ほどではないにせよ密接な関連のある税金です。消費税については最後の方で触れております。
今回のコラムをご覧いただければ開業するにあたっての手続が非常に多いことがお分かりいただけると思います。今回のコラムを全部理解する必要はありません。手続の大変さについてイメージしていただければ十分です。
2 個人事業の開業・廃業等届出書(いわゆる開業届)
事業を開始したら個人事業の開業・廃業等届出書、いわゆる開業届を提出しなければなりません。提出期限は特に決まっていませんが、開業後すみやかに提出することとされています。
3 棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
事業を始めたら棚卸資産や減価償却資産と呼ばれる資産を所有することになります。
棚卸資産と減価償却資産はいずれも事業にかかった経費(以下、「経費」といいます)を計算するうえで重要な資産です。
ここで棚卸資産・減価償却資産と経費の関係について簡単に説明します。
(1)棚卸資産
棚卸資産とは商品・製品などの棚卸をする資産を指します。
下図左は棚卸資産と経費の関係を図にしたものです。
棚卸資産はその年に仕入・購入した代金がそのまま経費になるのではなく、実際に販売・使用した分が経費となります。
実際に販売・使用した分は年初の残高にその年に仕入・購入した分を加え、そこから年末の残高を差し引きます。
この年末の残高を計算する方法(これを評価方法といいます)がいくつかあるため、前もって評価方法を決めて税務署に届け出なければなりません。
(2)減価償却資産
減価償却資産とは建物・器具備品など時間の経過とともに経年劣化して価値が減少する資産のことを指します。
下図右は減価償却資産と経費の関係を図にしたものです。
経年劣化の度合いを実際に目視で確認するのではなく、法令によってn年後に価値がなくなるという前提を置き、どのように価値が減少していくかの計算方法(これを償却方法といいます)をいくつか用意しています。
代表的な償却方法が定額法と定率法であり、定額法はn年間にわたって一定額を毎年償却費として計上する一方で、定率法では1年目に大きな償却費を計上して年数の経過とともに償却費は小さくなっていきます。
償却方法によって価値の減少分(これを償却費といいます)が異なるため、前もって償却方法を決めて税務署に届け出なければなりません。

いずれの届出書も確定申告期限までに提出することとされています。
ただし、届出書を提出しなかった場合でもペナルティが課されるわけではなく、法令で定められた棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法により計算することとされています。
4 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
アルバイトなどの従業員を雇って給与を支払う場合には、支払う際に一定の所得税を徴収(これを源泉徴収といいます)しなければなりません。そして源泉徴収した所得税(これを源泉所得税といいます)は給与を支払った月の翌月10日までに国に納付しなければなりません。ただし、毎月源泉所得税を納付するのは面倒なので従業員数が10人に満たない場合には年2回だけの納付で済ますことができる特例があります。これを納期の特例といいます。
この納期の特例の適用を受けるためには税務署長の承認を受けるための申請書の提出が必要です。
提出期限は特になく、基本的には申請書を提出すれば特に問題がない限り提出日の翌月から納期の特例の適用が受けられます。
5 青色申告とは何か?
前回のコラム開業と税金① 給与とは異なる「事業」の税金計算のしくみにおいて青色申告という言葉が出てきました。青色申告とは青色の申告書により確定申告することを言います。ただし現在では税制面での特典を受けるための制度という意味合いが強いです。青色申告の特典を受けるためには帳簿の整備が必要となります。帳簿の詳細は次回お伝えしますが、青色申告で作成する帳簿の方が複雑で所得計算が正確に行いやすいという利点があり、国としては事業者に青色申告による帳簿を作成してほしいのですが手間がかかります。そこで青色申告の方が税金が少なくなるような以下の特典が用意されています。
(1)事業にかかる経費の範囲が広くなる
所得税では事業のために支払ったモノ・サービスのすべてが事業にかかった経費として認められるわけではありません。際限なく経費として認めると利益操作が行われて国の税金が減ってしまうため経費の範囲に制限をかけているのです。青色申告では白色申告よりこの経費の範囲を広げて事業の所得を減らし、税金を減らしやすい仕組みにしています。
(2)青色申告特別控除が認められる
前回のコラム開業と税金① 給与とは異なる「事業」の税金計算のしくみにおいて事業の所得は下記の計算式により計算されるとお伝えしました
事業の所得=事業の収入ー事業にかかった経費
青色申告特別控除とは上記の計算式からさらに10万円(一定の場合には55万円または65万円)を控除した金額を事業の所得とすることができるものです。ただし、控除できるのは上記の計算式で0円になるまでです。
(3)純損失の繰越控除
これも前回のコラム開業と税金① 給与とは異なる「事業」の税金計算のしくみでお伝えしましたが、上記の計算式においてマイナスになる場合もありマイナスの金額は他の所得と損益通算できます。それでもマイナスの金額が残った場合には翌年以後3年間にわたって繰り越して損益通算と同じようにその年の所得から差し引くことができます。
6 青色申告承認申請書
6で触れた青色申告の特典の適用を受けるためには税務署に青色申告承認申請書を提出して税務署長から青色申告の承認を受けなければなりません。開業した年から青色申告するには開業した年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合には開業から2か月以内)に提出しなければなりません。提出後12月31日まで税務署から何の処分もなければ翌年の確定申告において青色申告することができます。
ここで注意しなければならないのが、すでに不動産所得や山林所得が発生する業務(事業と呼べるほどの規模ではない業務)を行っていた場合です。この場合には事業を開始する場合には開業日に関係なく3月15日が提出期限となります。
7 青色専従者給与に関する届出
開業して親族に事業を手伝ってもらった場合には給与を支払いたくなりますが、同一生計親族に給与を支払う場合にはこの給与は原則として経費にはなりません。給与の名の下に同一生計親族との間で所得操作が行われることを防ぐためです。
ただし、年間を通して事業に貢献した同一生計親族(これを専従者といいます)がいたら、その貢献分を経費として認めようという制度があり、これを専従者控除といいます。しかしながら専従者控除は最大でも1人につき86万円しか受けられず、あまり大きな節税効果はありません。これに対して青色申告する人には同一生計親族に支払った給与として適正と認められる分を経費として認めるという制度があります。これを青色専従者給与といいます。青色専従者給与を経費にするためには青色専従者給与に関する届出書を開業した年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合には開業から2か月以内)に提出しなければなりません。
※青色申告承認申請書の提出期限とは微妙に異なります。
8 消費税課税事業者選択届出書
(1)消費税の納税義務と免除
開業したら下記の計算式により計算される消費税を翌年3月15日までに国に納税する義務が発生します。
納税する消費税=事業の収入に含まれる消費税ー経費・固定資産に含まれる消費税
ただし、2年前の事業の収入(消費税が課税されるものに限ります。これを課税売上といいます)が1,000万円以下であれば消費税の納税義務は免除されます。つまり最低でも開業した年とその翌年は納付の義務が免除されます。
(2)貸しビルなどを始める場合
ほとんどの場合は(1)の計算式の結果がプラスになりますが、ごくたまにマイナスになる場合もあります。それは貸しビル用のビルを購入した場合です。上記計算式の結果がマイナスになる場合には還付を受けることができます。ただし、納税義務が免除されるとこの還付を受けられません。そこで消費税課税事業者選択届出書を提出することにより納税義務を免除されなくする方法をとることがあります
(この納税義務が免除されない事業者を課税事業者といいます)。課税事業者になると最低2年間は消費税の納税義務は免除されないので慎重さが求められます。
(3)消費税課税事業者選択届出書の提出期限
開業した場合には開業した年の12月31日です。ただし、以下の場合は開業年の前年12月31日までに提出しなければなりません。
①すでに不動産所得、山林所得が発生する業務を行っている場合
②開業した年の前年から開業準備のために経費を負担していた場合
9 適格請求書発行事業者の登録
8において消費税の計算式に触れましたが、経費・固定資産に含まれる消費税を差し引くためには経費や固定資産の代金を支払った際に仕入先・購入先から適格請求書(いわゆるインボイス)の交付を受けてこれを保管しなければいけません。ただし誰でもインボイスを発行できるわけではなく、国税庁にて適格請求書発行事業者の登録を受けなければいけません。
これは得意先である事業者にも当てはまることです。そのため得意先はインボイスを発行できる事業者と取引しようとするかもしれません。そのため、事業者への売上が多い事業を始める場合には適格請求書発行事業者の登録も検討する必要があります。
適格請求書発行事業者の登録を受けるにはインボイス発行開始予定日の15日前までに税務署に申請書を提出する必要があります。
なお、適格請求書発行事業者の登録を受けると消費税課税事業者選択届出書を提出したのと同様に消費税の納税義務が免除されなくなりますので慎重に検討する必要があります。
10 おわりに
今回は開業に必要な手続と消費税についてお伝えしました。
開業にあたって必要な手続、検討を要する手続が多いことに驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
これらの手続はただ煩雑なだけでなく、将来的な税金計算にも影響してくるものです。
一般の方が一人で行うのは非常に難しいものがあり、開業時だけでなく将来も見据えて継続的に専門家の力も借りないと開業時どころか確定申告の時期に大変な思いをしたり、税金を多めに納付しなければならなくなります。
お金を可能な限り節約したいという方は青色申告会や商工会への入会を考えましょう。また、お金に余裕があって積極的に節税したり、事務処理を任せたいという方は税理士に依頼しましょう。
なお、当事務所はスポットでの相談・受託が基本ですが、リピーターでの利用も歓迎しております。ご興味のある方はオンライン個別税務相談にてご相談ください。


