シリーズ決算⑦ 給与天引き
シリーズ決算の7回目は給与天引きです。
給与天引きにあたっては
第1回の「シリーズ決算① 資産・負債の残高」では資産・負債の残高が利益計算に影響することと残高確認についてお伝えしました。
今回は給与天引きとの関連で発生する資産・負債を取り上げます。
1 給与と社会保険料・税金
毎月の給与を支払う際に社会保険料や労働保険料の従業員負担分・源泉所得税・特別徴収の住民税を控除しているかと思います。また、社会保険料や労働保険料については事業主負担分として法定福利費を計上しているかと思います。ここでは当月分の給与を翌月に支払う場合を前提に仕訳処理の例を示すと下記の通りとなります。
※源泉所得税と住民税は納期の特例によらず、翌月10日に納付するものとします。
①給与・役員報酬支払い
(給与) ×××
(役員報酬 ) ×××
(現預金)×××
(預り金源泉所得税)×××
(預り金住民税)×××
(預り金社会保険料)×××
(預り金労働保険料)×××
②月末に社会保険料納付
(法定福利費)××× (現預金)×××
(預り金社会保険料)×××
※法定福利費は社会保険料事業主負担分
③翌月10日に源泉所得税・住民税納付
(預り金源泉所得税)××× (現預金)×××
(預り金住民税)×××
社会保険料は翌月末日(翌月末日が休日の場合には翌々月最初の平日)に事業主負担分と従業員負担分を合わせて納付します。
仮に②の月末が休日であり決算日でもある場合において法定福利費を当期分として計上する場合には下記のような仕訳が必要です。
②ー1 決算日に社会保険料納付額を未払金に振り替え
(法定福利費)××× (未払金)×××
(預り金社会保険料)×××
②ー2 翌期に社会保険料を納付
(未払金)××× (現預金)×××
2 決算日における残高
1の事例において決算日における負債の残高は下記のとおりとなります(④の未払金は決算日が休日の場合にのみ発生します。)
もし①~④の科目の元帳の残高が下記と相違していたら過去の会計処理に誤りがあった可能性があります。
なお、労働保険料については下記3でご説明します。
①預り金社会保険料 なし
②預り金源泉所得税 翌月納付額
③預り金住民税 翌月納付額
④未払金 翌月納付額 ※決算日が休日の場合にのみ残高が生じる
3 労働保険料の処理
労働保険料については一元適用事業であることを前提にすると毎年6月1日から40日以内に1年間(4月1日~翌年3月31日)の給与見込み額をもとに計算した事業主負担分と従業員負担分を合わせて納付することとなっています(概算納付)。従業員負担分については事業主が立替払いして毎月の給与から控除することとなります。
そして翌年6月1日から40日以内に1年間の実績をもとに計算した保険料と上記の概算納付額との差額を納付します(確定納付)。
法人税法においては労働保険料の申告書を提出した日または労働保険料を納付した日の属する事業年度に労働保険料の事業主負担分を経費に算入することとなっています。
ここでは3月末決算の会社が7月10日に保険料を納付する事例をもとに仕訳を示します。
①7月10日に概算保険料納付
(法定福利費)××× 事業主負担分
(立替金)××× 従業員負担分
(現預金)××× 保険料納付
②従業員負担分給与控除(7月~翌年3月)
1の①のとおり
③3月31日(決算日)
仕訳なし
④従業員負担分給与控除(4月~6月)
1の①のとおり
⑤7月10日に確定保険料と翌期の概算保険料を納付
(法定福利費)××× (現預金)××× 概算保険料との差額を納付
(預り金労働保険料)××× (立替金)××× 従業員負担分相殺
(法定福利費)●●● 概算保険料事業主負担分
(立替金)●●● 概算保険料従業員負担分
(現預金)●●● 概算保険料納付
以上が労働保険料の納付の流れです。
⑤では確定保険料と翌期の概算保険料をまとめて納付することになりますが、仕訳例のように確定保険料と概算保険料を分けた方が良いでしょう。
決算日の残高は以下の通りとなるはずです。
①立替金 7月10日に計上した額
②預り金労働保険料 7月~3月に給与から控除した金額の合計
4 労働保険料の処理 月次決算を組む場合
3では納付日に法定福利費を計上する方法を示しましたが全然やり方が違うと思った方がいらっしゃるかもしれません。
特に月次決算を組む場合には違うやり方が必要でしょう。
労働保険料の基礎となる期間(「保険年度」といいます)は4月1日~3月31日ですので保険年度にわたって法定福利費を配分すると以下のようになります。
①月次処理(4月~6月)
(法定福利費)××× (未払費用)×××
(給与)××× (預り金労働保険料)×××
①7月10日に概算保険料納付
(未払費用)××× 4~6月分の事業主負担分
(前払費用)××× 7~3月分の事業主負担分
(立替金)××× 従業員負担分
(現預金)××× 保険料納付
②従業員負担分給与控除(7月~翌年3月)
(法定福利費)××× (前払費用)××× 事業主負担分の月次振替
(給与)××× (預り金労働保険料)××× 従業員負担分控除
③3月31日(決算日)
仕訳なし
④翌期の概算保険料月次計上(4月~6月)
(法定福利費)××× (未払費用)×××
(給与)××× (預り金労働保険料)×××
⑤7月10日に確定保険料と翌期の概算保険料を納付
(法定福利費)××× (現預金)××× 概算保険料との差額を納付
(預り金労働保険料)××× (立替金)××× 従業員負担分相殺
(未払費用)●●● 4~6月分の事業主負担分
(前払費用)●●● 7~3月分の事業主負担分
(立替金)●●● 概算保険料従業員負担分
(現預金)●●● 概算保険料納付
①では概算保険料の納付期日が未到来なので未払費用を計上し、②で消去しています。
また、②では概算保険料1年分のうち月次処理が済んでいない9か月分を前払費用として計上しています。
そうすると決算日における残高は以下の通りとなるはずです。
①立替金 7月10日に計上した額
②預り金労働保険料 4月~3月に給与から控除した金額の合計
5 最後に
これまでシリーズ決算では資産・負債の残高に着目した決算処理についてお伝えしてきました。
まだご紹介していない科目がありますが、資産・負債の残高については一旦終了とします。
次回からは会計ソフトの帳票を活用した決算作業についてお伝えします。
資産・負債の残高を確認し始めると1つの事業年度では到底完了できない作業量になるかもしれません。
金額の大きな科目から着手してキリの良いところで次期以後に作業することも必要です。
また、これまでに取り上げた仕訳例では自社の会計処理になじまないという方もいらっしゃるかもしれません。
資産・負債の残高に着目した決算処理についてご不明点等ありましたら当事務所にご相談ください。
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